「米国への不信感」で市場に不安定さが広がっています。ドル建て資産を持つ投資家たちは、為替変動への備えとして、本格的にヘッジを検討し始めているようです。
トランプ前大統領が推進する貿易政策の影響で、ドルの値動きが激しくなっており、これまで揺るがなかったドルへの信頼に変化が見られています。現在、外国人が米国に投資している資金は約33兆ドルにのぼりますが、為替変動リスクに備えてヘッジをしているのはごく一部にとどまっています。
これまで「安全資産」として扱われてきた米ドルと米国債も、相互関税などの政策による市場混乱の影響を大きく受けており、その信頼性が揺らいでいるのです。最近では、投資家が資金を現金などに移す動きも見られ、米国債の利回りが上昇(価格は下落)、ドルは主要通貨に対して値下がりしました。ドル指数も、およそ2年ぶりに100を下回りました。
「米国はこれまで、安定性や法の支配、中央銀行の独立性を提供してきましたが、移民政策の変化や関税の増加、そして『弱いドル』を歓迎する姿勢の政権の登場により、以前とは違う状況が生まれています。これらの要因は、ヘッジをしていない投資家にとっては好ましくない組み合わせです」との指摘もあります。
米国市場は、経済力だけでなくドルへの信頼に支えられて存在感を保ってきました。アメリカのGDPは世界の約26%ですが、世界の株式投資の3分の1以上が米国に流れています。2023年末の時点で、外国人投資家がドル建てで保有している株や債券は33兆ドルにのぼり、そのうち約14.6兆ドルが債券でした。
株式は一般的にリターンが高いためヘッジは行われにくい一方、債券は利益率が低く、為替の変動により損失を受けやすいため、ヘッジの必要性が高まっています。
ドルの激しい値動きが続く場合、投資家はデリバティブなどを使ってドルを売るか、米国市場から資金を引き上げることでリスクを回避する必要があるかもしれません。ヘッジ比率が1ポイント上がるだけで、最大3200億ドル規模のドル売りが起きる可能性があり、複数のアナリストは、今後10〜15ポイントの上昇もあり得ると見ています。そうなると、数兆ドル規模のドル売りに発展する可能性もあるのです。
<日本の投資家の動きに注目>
日本では、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や生命保険会社が米国資産の大口投資家です。2023年末時点で、日本のドル建て資産投資額は約2兆ドルに達しています。
最近3か月で円高ドル安が進み、特に4月には6%近く円高になったことで、円換算の資産評価額が目減りし、日本の投資家にとっては無視できない影響となっています。
日本の生保各社はこれまでヘッジ比率を徐々に引き下げており、年金基金はほとんどヘッジを行っていません。生保が保有する約60兆円(約4200億ドル)の外貨建て資産のうち、ヘッジされているのはおよそ30%にとどまると見られています。ただし、日銀が利下げに動いた場合、ヘッジ比率が高まる可能性があります。
「もし日本の投資家が米国経済への懸念を強めれば、予想よりも早く資金の国内回帰や通貨ヘッジが進み、円相場が1ドル=135円近辺まで円高になる可能性もあります」との見方も出ています。
また、日本の個人投資家の動向も為替に影響を与える要因です。毎月1兆円前後が投資されており、多くは米国株ファンドに向かっていますが、ヘッジは行っていません。もしこれらの投資家が一斉に動いた場合、大きな円高要因になると考えられています。
試算では、GPIFが保有する約7000億ドルの外貨建て資産のうち、ヘッジ比率を10ポイント引き上げると約700億ドル分の円買いが発生します。円高が続けば、日本の投資家によるヘッジ関連の円買いは1000億〜2500億ドル規模にまで拡大する可能性があります。
日本以外にも、英国、オーストラリア、スイス、カナダなどの年金基金や生命保険会社も、米国債の主要な投資家です。ヨーロッパでは、ドルや米国債の下落を受けて、金融監督当局が銀行の外貨建て資産の状況を調査し始める事態にまで発展しています。欧州中央銀行(ECB)や各国当局が銀行に対し、米国債の保有状況を確認するなど、不透明感が広がっています。
2023年時点で、年金基金や政府系ファンドのヘッジ比率は国によって大きく異なります。日本や韓国ではほぼゼロ、オーストラリアやオランダでは40%前後、スウェーデンやスイスでは約65%でした。
今後、たとえばオーストラリアのヘッジ比率が10ポイント上昇した場合、年金基金などによるドル売りは最大で580億ドルに達する可能性があります。実際にオーストラリアは昨年末に約4070億ドル相当の外国株を購入しましたが、ヘッジ比率は低下していました。仮に全体のヘッジ比率が1ポイント上昇すれば、87億豪ドル分のヘッジ需要が生じ、豪ドルにとってはプラス要因となります。

