日銀の利上げ判断は「見送り」も視野に入る難局に

日銀の利上げ判断は「見送り」も視野に入る難局に

中東情勢の影響が広がる中で、日本銀行が4月に利上げへ踏み切るかどうかは、極めて難しい判断になりそうです。物価の上振れが意識される一方で、景気下振れのリスクが同時に強まっており、拙速な利上げは大きな賭けになりかねません。基調的な物価上昇率がまだ2%に達していない現状を踏まえると、利上げを急がないという選択肢も現実的に浮上してきます。ただし、その場合には円安が進行する可能性もあり、日本銀行にとって悩ましい状況であることは間違いありません。

こうした判断の難しさの背景には、中東の緊迫化に伴う供給ショックがあります。エネルギー価格の上昇は物価を押し上げる一方で、交易条件の悪化を通じて景気を冷やす方向にも働きます。もともと日本銀行は「経済と物価の改善に応じて利上げを進める」としていましたが、現在のように景気と物価が逆方向に動く局面では、その前提自体が揺らいでいます。

さらに問題なのは、影響が単なる価格上昇にとどまらない点です。ホルムズ海峡の混乱により、エネルギー供給そのものが制約され始めています。原油や天然ガスは世界供給の大きな割合を占めており、その一部でも滞れば、世界経済への打撃は避けられません。すでにナフサ不足からエチレンの減産が起き、その先のプラスチック製品の供給にも影響が広がりつつあります。加えて、ヘリウムやアルミ、肥料といった他の資源にも支障が出ており、航空運賃の上昇や減便を通じて観光需要にも影響が及ぶ可能性があります。

金融面でも不安要因は残ります。もともと市場では、人工知能関連の過熱やプライベートクレジットのリスクが意識されていました。ここに景気減速が重なると、資産価格の調整が起こりやすくなります。金融システム全体の機能不全に至る可能性は高くないものの、資産価格の下落が進めば、消費を支えてきた層への影響は避けられません。

為替も不安定要因の一つです。原油高は日本の貿易赤字を拡大させやすく、基本的には円安圧力として働きます。ただし、過去のように米欧が積極的に利上げを進める局面とは異なり、現在の米国では雇用への懸念が残っています。そのため、状況次第では利下げに転じる可能性もあり、ドル安・円高へ振れるシナリオも否定できません。

一方で、3月の金融政策決定会合やその後の「主な意見」を見る限り、日本銀行内部には利上げに前向きな空気も強く感じられます。物価上振れリスクを重視する意見がやや優勢であり、利上げの遅れによるビハインド・ザ・カーブへの警戒も強まっています。急激な利上げを後から強いられるリスクを避けるため、早めの対応を求める声や、場合によっては利上げ幅の拡大に言及する意見も出ています。

また、日本銀行総裁も会見の中で、成長率が下振れしても基調的な物価に影響がなければ利上げは可能との考えを示しており、従来の「経済改善」を前提とする枠組みの見直しも示唆しています。さらに、賃上げ動向についても前向きな評価が示されており、実際に春闘の結果は3年連続で高い伸びとなっています。円安の物価への影響が強まっている点や、新たな物価関連指標の公表なども含め、利上げ環境を整える動きは進んでいます。

ただ、それでもなお、現実の経済環境は不確実性が大きすぎます。エネルギー供給の回復時期や規模、世界経済への波及経路など、重要な要素が見通せないままです。こうした状況では、利上げ判断そのものがリスクを伴う選択となります。

結果として、4月の決定は、物価上昇への対応と景気悪化リスクのどちらをより重く見るかという、非常に難しいバランスの上に成り立つことになります。日本銀行にとっては、どの選択をしても副作用を伴う局面に入っていると言えそうです。