1.CMEドル円オプション市場の現在の状況
CME Group公表のJapanese Yen Options VOI(Volume/Open Interest)データを、2026年8月18日分・8月19日分の2営業日で比較した。8月19日時点のTotal Open Interest(Call+Put合計)は187,118枚で、前営業日の177,560枚から9,558枚増加している。内訳はCall OIが99,691枚(前日比+7,347枚)、Put OIが87,427枚(前日比+2,211枚)で、直近1営業日はCall側の積み上がりがやや優勢だった。
USD/JPYは分析時点で159.50円前後(外部FX市場データ、CME先物の清算値ではない点に注意)。オプション建玉全体の構造を見ると、建玉の大部分は最も近いMonthly限月であるSEP26(9月限)に集中しており、Total OIは73,423枚とMonthly全体の46%、全体の39%を占める。次いでDEC26(12月限)が36,424枚、OCT26(10月限)が29,074枚と続く。
2.満期別のCall / Put建玉
| 限月 | Call OI | Put OI | Total OI | Put/Call比 |
|---|---|---|---|---|
| SEP26 Monthly | 35,382 | 38,041 | 73,423 | 1.08 |
| DEC26 Monthly | 20,663 | 15,761 | 36,424 | 0.76 |
| OCT26 Monthly | 12,033 | 17,041 | 29,074 | 1.42 |
| NOV26 Monthly | 5,906 | 4,324 | 10,230 | 0.73 |
SEP26はPut/Call比1.08とほぼ均衡だが、OCT26は1.42とPutがやや優勢。直近満期に近いほどPut需要が相対的に高まっている構図が見て取れる。一方でDEC26やNOV26はCallの方が多く、限月ごとにポジションの色合いが異なっている点は、単純に「ドル円のオプション市場全体が弱気」と一括りにできないことを示している。
3.主要Monthly Optionsの詳細分析
最大のOIを抱えるSEP26限月のチェーンを見ると、Call側は153.85円(6500、10,979枚)と156.25円(6400、9,194枚)が突出して厚い。Put側は158.73円(6300、7,210枚)と160.00円(6250、5,049枚)が中心で、いずれも現在値のごく近傍に建玉が積み上がっている。
DEC26限月ではCall 6500(153.85円)が2,613枚と最大だが、前日の3,166枚から553枚減少しており、Monthly建玉の中では珍しく大きめの減少を記録した限月でもある。OCT26限月はPutの方が厚く、6250(160.00円)に950枚が集中している。
4.Weekly Optionsの特徴
Weekly Options全体のTotal OIは27,733枚で、Monthly全体(159,385枚)のおよそ17%規模にとどまる。区分別ではFriday Week3(AUG26満期)が8,029枚と最大で、Thursday Week3(AUG26満期、4,210枚)、Friday Week4(AUG26満期、3,705枚)が続く。
なお、CME公開データには正確な満期日(何月何日か)までは記載がなく、「Week3のFriday」という表記からピンポイントの日付を断定することはできない。あくまで「直近の週次限月に短期的なポジションが集まっている」という傾向として捉えるべきだろう。
興味深いのは、Weekly Tuesday Week3(AUG26満期)の建玉が、8月18日時点ではCall・Putともに一定枚数存在していたのに対し、8月19日には両方ともゼロになっている点だ。これは新規の手仕舞いというより、満期到来によってポジションが自然に消滅したと考えるのが妥当である。
5.Strike別の最大建玉
全満期を横断してTotal OIを集計すると、158.73円(6300)が20,448枚で最大、次いで161.29円(6200)が14,360枚、156.25円(6400)が11,887枚、153.85円(6500)が11,848枚と続く。158.73円は単独の限月ではなくSEP26・NOV26など複数の満期にまたがって建玉が存在しており、複数限月での集中という点でも重要度が高い。
6.OI Changeから見えるポジション変化
CME公表のOI Change(8月18日→19日の変化)を確認すると、最も増加幅が大きかったのはWeekly Monday Week2(SEP26満期)のCall 153.85円で、前日のゼロから1,316枚へと一気に積み上がった。同様にMonthly OCT26のCall 150.38円も29枚から1,269枚へ急増している。
一方で減少が目立ったのはMonthly DEC26のCall 153.85円で、3,166枚から2,613枚へ553枚減少した。変化率で見ると、Weekly Friday Week3(AUG26満期)のCall 158.10円が122枚から828枚へと578%の増加を記録しており、絶対値は大きくないものの、既存ポジションに対する変化としては際立っている。
ここで強調しておきたいのは、これらのOI増加を「新規の買い建て」、OI減少を「売り決済」と単純に断定することはできないという点だ。新規売り建てによる増加も、ロールオーバーによる変化も、同じOI増加として表れる。今回のデータだけでは、どちらが主因かを判別する材料はない。
7.ドル円の重要オプションゾーン
Strike別のOI分布をゾーンとして捉えると、158.10円〜160.64円のレンジにCall・Put双方の建玉が厚く積み上がっており、現在値159.50円をちょうど挟む形になっている。特にPut側は158.73円と160.00円に集中しており、このゾーンが目下最もオプション市場から意識されている価格帯と言える。
その上には152.67円〜157.48円にCall OIの集中ゾーンがあり、156.25円・153.85円が中心。下方には163.93円〜166.67円にPut OIの集中ゾーンがあり、現在値からやや離れた位置に厚みのあるプットが並んでいる。
8.Gamma分析
CME公開のVOIデータにはImplied VolatilityもExact Expiration Dateも含まれていないため、以下はあくまで仮定条件に基づくモデル推定値であり、実測値ではないことを明記しておく。
計算にはBlack-76モデルを用いた(CME Rulebook Chapter 253Aにより、当オプションはEuropean-style行使であるため)。満期日はSEP26限月について、CMEの標準的な月次オプション満期慣行(限月前月第3水曜日の2週間前の金曜日)から2026年9月4日と近似し、残存期間は約16日(年率換算で約0.044年)とした。IVはデータがないため8%・10%・12%の3シナリオを設定した。
この前提のもとでは、現在値に近い158.73円・160.00円のGammaが最も高く出た(IV10%で0.116〜0.118)。逆に現在値からやや離れた156.25円や163.93円ではGammaが低下する、教科書通りの分布になっている。ただし、これは仮定のIVとおおよその満期日に基づく推定であり、実際のインプライドボラティリティが異なれば数値は大きく変わる点に注意が必要だ。
9.GEX分析
Gamma×Open InterestをベースにしたGross GEXを試算すると、158.73円がCall側260・Put側837(IV10%シナリオ、相対単位)と、Put側のGEXが大きく上回る結果になった。160.00円・161.29円も同様にPut側優勢。一方156.25円・157.48円ではCall側のGEXがPut側を上回っている。
Signed GEX(Callを+、Putを-とする分析上の仮定で計算)で見ると、158.73円は-577、160.00円は-480とマイナス圏、156.25円は+333、157.48円は+286とプラス圏になる。ただしこの符号はあくまで分析上のルールであり、実際にディーラーがCallを買い持ち・Putを売り持ちしているといった事実を意味するものではない。CME公開のOpen Interestだけでは、その建玉が誰の、どちら向けのポジションなのかを判別することはできないためだ。
10.現在のドル円市場で意識されやすいStrike
Total OI、OI Change、複数限月での集中、現在値からの距離、Gamma・GEXを総合すると、以下のStrikeが目下意識されやすいと考えられる。
- 158.73円(Total OI 20,448枚、複数限月に分散、Gamma・GEX最大級)
- 160.00円(Total OI 9,963枚、Put優勢、現在値からわずか0.50円)
- 161.29円(Total OI 14,360枚、Put優勢)
- 156.25円(Total OI 11,887枚、Call優勢)
- 153.85円(Total OI 11,848枚、Call優勢、SEP26チェーンの最大Call)
- 157.48円(Total OI 11,692枚、Call・Putともに厚い)
- 163.93円(Total OI 9,457枚、Put優勢、下方の厚いヘッジ)
- 155.04円(Total OI 7,073枚)
- 152.67円(Total OI 6,893枚、Call優勢)
- 166.67円(Total OI 6,001枚、全量Put)
11.Resistance / Support候補
Resistance候補(Call OI集中、現在値より上のゾーン):156.25円、153.85円、152.67円。いずれもCall建玉が厚く、Gamma集中エリアとも重なるため、上昇局面で値動きが重くなりやすい価格帯の候補として意識されやすい。
Support候補(Put OI集中、現在値より下のゾーン):158.73円、160.00円は現在値のすぐ近くに位置し、161.29円・163.93円・166.67円はやや下方に厚いPutが並ぶ。これらも下落局面で下値の目安として意識されやすい候補ではある。
ただし、これらはあくまで「候補」「意識されやすい価格帯」であり、「巨大OI=必ずそこで反発する」という単純な図式で捉えるべきではない。
12.今後注目すべきStrike
158.73円と160.00円は、Total OIの大きさ、Gammaの高さ、そして現在値との近さという3つの条件が重なっており、今後も注目に値する。特に158.73円は複数の限月(SEP26・NOV26など)にまたがって建玉が存在しているため、一つの限月の需給だけでなく市場全体の意識が集まりやすいストライクと言えるだろう。
また、Weekly Monday Week2(SEP26満期)のCall 153.85円のように、1営業日でゼロから1,000枚超に積み上がったストライクも、今後の推移次第では新たな注目点になり得る。今回は1日分の変化しか確認できていないため、この増加が継続的なものかどうかは次回以降のデータで見極めたい。
13.オプション建玉を相場分析に利用する際の注意点
今回のCMEデータには、Implied Volatility、正確な満期日、Delta、そしてディーラーのポジション情報は一切含まれていない。そのため、Gamma・GEXはすべてモデル推定値であり、実測値として扱うことはできない。またOI増加を新規買い、OI減少を売りと断定することもできず、巨大なOIがあるからといって、その価格まで必ず動く、あるいはその価格が必ず支持線・抵抗線になるとも言えない。CMEのオプション建玉データは、あくまで「市場参加者がどの価格帯を意識しているか」を推測するための一つの材料として捉えるべきである。
14.まとめ
8月18日から19日にかけての1営業日の比較では、Total OIが9,558枚増加し、特にSEP26限月とWeekly Monday Week2(SEP26満期)の一部Strikeで大きな増加が見られた。現在値159.50円を挟む158.73円〜160.64円のゾーンに建玉とGammaが集中しており、目下このゾーンが最も市場の意識を集めていると考えられる。一方で156.25円〜157.48円にはCall優勢の厚みがあり、163.93円〜166.67円には下方のPutヘッジとみられる建玉が並んでいる。
今後はこのCMEデータを継続的に取得し、前日比・前週比の変化を追跡することで、ドル円オプション市場のポジション変化を継続的に分析していく。特に今回浮かび上がった158.73円、160.00円、153.85円といったStrikeが、その後のOI推移やGamma集中度の変化を通じてどう動いていくのかを、次回以降のデータで確認していきたい。


コメント