アメリカの重商主義と中国の重商主義

最近の米国の保護主義的な政策の下で、国際社会は17世紀の重商主義を思わせる方向へ急速に傾いているように見えます。貿易をゼロサムで考え、各国が自給自足を目指して輸出を輸入より多くするべきだという考え方です。

かつての絶対王政期に採られた政策が再び取り入れられ、米国が優位に立つことを目指しているようにも映ります。

古典派経済学の立場からは、重商主義に対する自由市場の理論が打ち立てられました。ある研究者は、重商主義が貴金属の蓄積を重視して輸入抑制と輸出奨励を進めるやり方は、国民全体の富の増加とは相容れないと指摘しています。

こうした自由市場の考え方は20世紀の大半にかけて西側諸国の経済運営に影響を与えてきました。ところが最近、ある米国大統領が4月2日を「解放の日」として大規模な高関税措置を打ち出したことで、状況は変化しました。市場は動揺したものの、関税は維持され、インドやブラジルなど重要な相手国に対しても引き上げられる場面がありました。意外にも多くの国が大規模な報復を避け、米国に有利な貿易条件を受け入れるケースも見られます。

現時点では一見すると米国の政策が勝利しているように見えますが、長年にわたって重商主義的手法を磨いてきた国が存在し、その国のほうが先を行っている可能性がある点は見落とせません。それが中国です。

中国の重商主義1.0―為替操作とWTOの隙間

ある研究者は、米国は2000年代半ば以降に中国が進めてきた道に対して後手に回って対応したと見ています。中国は2001年末に世界貿易機関(WTO)に加盟しましたが、WTOが短期間で中国の影響力を抑え切れなかったという見方があります。

中国当局が打ち出した産業政策は、国有企業の優遇や補助金、直接融資や優遇貸付、政府主導の信用供与、技術移転や調達政策など多岐に及び、市場メカニズムが十分に働かない構造を生み出しました。

その結果、先進国側では製造業の空洞化が進み、社会的な問題が顕在化しました。こうした変化が後の政治的な転機につながった側面もあります。

中国は安価な製品を段階的に他国へ移転させ、ベトナムやバングラデシュといった新興国に製造を譲る一方で、2015年の人民元切り下げは世界的な金融不安を呼び、貿易黒字は2015年から2018年の間に6000億ドル台から4000億ドル弱へと大幅に縮小しました。

それでも中国は重商主義的な政策を続け、2018年以降は関税の影響を受けつつも貿易黒字を再び拡大させ、現在では過去最高に近い水準に達しています。

中国の重商主義2.0―世界へのデフレ輸出

中国の対米輸出には高い関税が課されていますが、世界全体への輸出総額はむしろ過去最高を更新しています。

米国の新たな重商主義的対応に対して、中国が採った手段の一つは、他国が対抗できないほど低い価格で世界市場に供給する、いわゆる不当廉売に近い戦略です。

従来から「デフレを輸出する」と批判されてきた中国製品は、米国の消費を刺激しつつもインフレ圧力を抑える効果を持つことがありました。しかし最近は、国内の過当競争と供給過剰という「内向きの競争」の構造そのものを海外に持ち出す形になっています。採算の合わない製品を世界市場に放出することで在庫処理や市場調整を図るやり方が、極めて効率的に機能しているのです。

一部の調査会社の分析では、今回の貿易再編の主要な要因はワシントン側の政策というよりも、北京側の戦略的な動きにあると指摘されています。以前の米国政権の初期には、中国企業がベトナムやメキシコ経由で対米輸出を迂回する例が見られましたが、今回の推計ではそのような迂回の効果は限定的で、減少分の大半は補えていないとされています。

このため中国はダンピング的な価格戦略へとシフトしており、こうした動きは最近に始まったものではなく以前から徐々に進んでいたと見る向きもあります。さらに、新型コロナウイルス対策のいわゆる「ゼロコロナ」を2022年10月に解除して以降の12か月間で中国の輸出価格は約22%下落し、他地域が価格を維持する中で相対的に優位性を高めました。

中国の重商主義3.0―次世代産業での先行支配

伝統的な重商主義は過去の産業を守ろうとする傾向がありますが、中国の新しいアプローチは未来に向けた競争力の確保に向いています。ある調査機関の責任者は、中国が新興の成長分野で圧倒的な地位を築きつつあると指摘しています。

国際的な統計によれば、中国は電気自動車(EV)や太陽電池、ソーラーウエハー、ソーラーパネルなどの生産で世界の大部分を占め、バッテリーも世界販売のかなりの割合を占めています。これらの分野では国内で過当競争が進み、価格の下落や利益率の悪化を招いていますが、中国政府は過当競争への対処を打ち出し、余剰生産分は再び世界市場に流れています。こうした輸出は関連分野での中国の優位性をさらに強める可能性があります。

一方で、現在の米国の政策は再生可能エネルギーに否定的な見方を示し、化石燃料への依存を続ける姿勢が見られます。脱炭素化が進行した場合、米国は不利な立場に置かれるリスクがあります。専門家の指摘では、中国の発電コストは米国よりもかなり低くなっているとされています。

重商主義的な潮流は世界で広がりつつありますが、重要なのは経験と実行力の差です。長年にわたって国家主導で経済戦略を磨いてきた国は、新しい国際秩序から相対的に大きな利益を得る可能性が高く、その影響力は今後も続く可能性があると考えられます。

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