トランプ大統領は、アメリカと貿易相手国との間にある関税の違いや市場の開放状況に格差があることを問題視しており、その不均衡を正すために、相手国に対して関税をかけることを決意。

トランプ大統領は、アメリカと貿易相手国との間にある関税の違いや市場の開放状況に格差があることを問題視しており、その不均衡を正すために、相手国に対して関税をかけることを決意されています。アメリカは長年にわたり、物品貿易において赤字を抱え続けており、国内の製造業も衰退してきました。こうした問題に真剣に取り組むことが、今まさに重要な局面を迎えているのです。

貿易赤字の影響で、国を守るために必要な防衛関連の装備品を自国で生産する力が落ちてきていることも深刻です。アメリカは世界の急速な変化に対応し、自国だけでなく同盟国の安全を確保しなければなりません。そのために必要な武器などを、中国や、将来的に貿易が止められる恐れのある国に頼ることはできません。国家の安全保障の観点からも、製造業をしっかりと支え、必要な物資を自前でまかなえる体制を整える必要があります。

関税に関しては、同盟国や友好国との交渉を通じて、関税率の大幅な引き下げや非関税障壁の撤廃など、貿易をより活発にする良好な合意が結ばれることを期待されています。中国に関しては、世界の貿易秩序を混乱させており、不公平な貿易を招いている主要な原因であることは明白です。アメリカが中国に対して課している追加関税が、他の国々と比べて非常に高い(最大で145%)ことは、こうした背景を踏まえると当然とも言えます。

一方で、中国との間で関税措置の見直しに関する協議が行われており、大統領はこの協議について「前向き」であると述べています。アメリカにとって重要な要素である市場開放や貿易障壁の改善といった条件を中国側が示せば、合意に至る可能性も十分にあるとのお考えです。今後の進展は中国の対応次第ということになります。

関税交渉の中で、為替相場、特にドル高の問題が中心的なテーマというわけではありません。確かに為替に関する課題は存在しますが、それを必要以上に重視するのは避けたいとのお考えです。昨年11月に発表された論文では、他の方の意見を紹介したにすぎず、ご自身の見解でもなければ、トランプ政権の方針を示すものでもありません。

また、貿易の決済に使われるドルが基軸通貨であることで、アメリカは大きな恩恵を受けていますが、同時に国際貿易の仕組みは安全保障と密接に関係しており、アメリカが一定のコストを背負っていることも事実です。たとえば、イエメンのフーシ派による紅海での船舶攻撃に対し、アメリカ軍が対応しているように、世界の貿易システムの維持にはアメリカの軍事力が大きく関与しているのです。

大統領は、世界の貿易によって利益を得ている国や地域も、負担を公平かつ適切に分かち合うべきだとお考えです。そうした仕組みが実現すれば、アメリカ国民の幅広い支持を得られるとともに、国際的な貿易体制がより強く、持続可能なものになると見込まれています。

◆スティーブン・ミラン氏は、米ハーバード大学で経済学の博士号を取得され、第1次トランプ政権では米財務省で経済政策担当の上級顧問を務められました。その後は米国のヘッジファンドでシニアストラテジストとして活躍され、今年3月からは大統領経済諮問委員会(CEA)の委員長を務めておられます。現在41歳です。

「障壁の格差、関税で是正」

こちらは、米大統領経済諮問委員会(CEA)のスティーブン・ミラン委員長へのインタビューの要点です。

——「相互関税」などを次々に導入された狙いについてお聞かせください。

「トランプ政権では、敵対する国だけでなく、同盟国や友好国に対しても関税を課しました。これは、アメリカと各国との間で貿易や市場へのアクセスの機会が対等でないという問題意識からです。大統領は、そうした不公平な障壁を関税によって是正していくことを強く意識されています」

「同盟国や友好国との関税に関する交渉では、相手国の関税率を大きく引き下げたり、非関税障壁を取り除いたりすることで、貿易の拡大につながるような、すばらしい合意が実現できると期待しています。こうした合意が可能なのは、アメリカとそれらの国々が長い年月をかけて強固な関係を築いてきたからこそです」

「アメリカは何十年にもわたって物品の貿易赤字を積み重ねてきました。その結果、製造業が大きく傷んでおり、この問題に今すぐ取り組むことが極めて重要になっています」

「貿易赤字の影響により、アメリカを守るために必要な防衛装備を国内で生産する力が落ちてきています。アメリカは、急激に変化する国際情勢に対応し、自国と同盟国の安全を守らなければなりません。そのために必要な兵器を、中国や、今後貿易が止まる可能性のある他国に頼ることは避けるべきです。国家の安全保障をしっかり支えられるよう、アメリカの製造業を維持・強化していく必要があります」

――中国に対する追加関税が合計で145%という高い水準になっている背景には、どのような政策的な意図があるのでしょうか。

「中国は、国際的な貿易の秩序を乱し、不公平な取引環境をつくり出しているという点で、もっとも深刻な問題のある国だと考えています。ですから、アメリカが中国に対して非常に高い関税をかけているのは、当然の流れだと思います。ただし、大統領は中国との関税に関する協議には前向きな姿勢を示しており、もし中国が市場の開放や貿易障壁の是正といったアメリカにとって重要な条件を提示すれば、合意に至る可能性は十分にあると見ています。最終的には中国側の対応次第だと思います」

――アメリカ東部から中西部にかけての「ラストベルト(さびついた工業地帯)」では、製造業の衰退が問題になっています。その原因として、ドル高やアメリカに不利な貿易体制があるという指摘について、トランプ政権はドル高の是正に取り組む考えはありますか。

「私たちが取り組んでいる相互関税の狙いは、各国が設けている不公平な貿易の障壁を正すことです。他国がアメリカ市場にアクセスできるのと同じように、アメリカも相手国の市場に公正にアクセスできるようにしたいと思っています。ですので、関税率を相互に均等にし、アメリカ製品の流通を妨げている非関税障壁の撤廃を進める方針です」

「為替の問題についても課題はあると思いますが、関税に関する交渉の中核ではないと考えています。過剰に重視するのは避けたいというのが基本的な姿勢です」

――日本の貿易政策や非関税障壁については、どのようにお考えですか。

「私は日本経済の専門家というわけではありませんが、日本とアメリカは長い年月をかけて非常に親しい関係を築いてきました。日本はアメリカの大切な同盟国でもあり、その関係が変わることはないと考えています。実際、第1次トランプ政権の際には、大統領は安倍首相と新しい貿易協定を結ぶことに成功しており、それは広く知られている事実です。両国の結びつきは非常に強く、今後の交渉においても、両国が再び納得のいく合意に達することができると、私は楽観的に見ています」

――高関税政策による輸入物価の上昇は、米国の消費者の負担にならないか。

「関税というのは、基本的にはその対象となる国が負担するものです。たとえば中国の場合、2018年から2019年にかけて人民元が安くなりました。その結果、中国からアメリカへの輸出品の価格が下がり、関税によるコスト上昇分がある程度打ち消された形になります。人民元の価値が下がったことで中国経済には打撃がありましたが、アメリカは関税収入を大きく得ることができました」

「為替と関税の関係は非常に複雑で、今後の動きを正確に予測するのは難しいです。ですから、これからどう展開していくかを注意深く見ていく必要があります」

――昨年11月に発表された論文で、アメリカの輸出を増やして製造業の競争力を高めるために、ドル高の是正を目指す国際協調の枠組み『マール・ア・ラーゴ合意』について触れていましたが、それはどのような趣旨だったのでしょうか。

「まず誤解のないように申し上げたいのですが、『マール・ア・ラーゴ合意』は私自身の提案ではなく、他の方のアイデアを紹介したものです。また、その論文を書いたのは現在の職に就く前のことであり、大統領や政権の方針を示したものではありません」

「大統領は、互いに関税をかけ合う『相互関税』や市場へのアクセスの公平性に強い関心を持っています。アメリカも他国と同じように、公平に市場へ参加できるようにすべきだとはっきり述べています。私の論文で取り上げた『マール・ア・ラーゴ合意』は、数ある政策の一例にすぎず、さまざまなリスクや効果、コストを検討するために紹介したひとつの選択肢です」

――ドルが基軸通貨であることについては、どのように考えていますか。

「ドルが国際的な取引の基準となっていることで、アメリカが大きな恩恵を受けているのは確かです。ただ、世界の貿易システムは安全保障とも深く関わっています。アメリカは、その安全保障面で多くのコストを負担しているのが現実です。たとえば、紅海での船舶攻撃に対してアメリカ軍が対応しているように、世界の貿易がアメリカの軍事力に支えられている部分は非常に大きいです」

「大統領は、世界貿易の恩恵を受けている国や地域も、アメリカと同じように費用を公正に分担すべきだと考えています。こうした考えが実現されれば、アメリカ国民の幅広い支持も得られますし、世界の貿易システムをより強く、そして長期的に持続可能なものにできると考えています」

――アメリカは他国に対して、貿易や安全保障の負担を一緒に担うよう求めていく方針なのでしょうか。

「これは誰かに何かを無理やり押しつけるという話ではありません。私の考えでは、アメリカ市場に商品を売るというのは一種の“特権”だと思っています。だからこそ、お互いにとって利益になる合意が交渉の中でできれば、それは双方にとって望ましい結果になると考えています」

「そして、具体的にどういう条件で各国と合意を結ぶのかというのは、最終的には大統領や交渉の現場にいる担当者たちが判断することです。私は経済学者であって、実際に交渉を担当する立場ではありません」

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