米国株式市場の展望：9月の急落リスクと経済指標への警戒

2025年9月1日

【考察】

米国の株式市場は、歴史的に見て株価の低迷が顕著な9月を前に、投資家の間に警戒感が広がっています。S&P500種株価指数は週次でわずかに下落し、4週間ぶりの反落となりました。特に、人工知能（AI）関連銘柄を牽引してきたエヌビディアの株価が3週連続で下落しており、市場全体の勢いが鈍化していることがうかがえます。

過去のデータから、S&P500の月間騰落率を見ると、9月は年間で最も成績が悪い月とされています。近年では特に、急激な下落がたびたび観測されており、これが「9月のジンクス」として投資家の間で広く認識されています。市場の現在の動きは、このジンクスに対する意識の表れだと考えられます。

一方、米連邦準備制度理事会（FRB）による利下げへの期待は、市場を下支えする要因となっています。最近発表された物価関連の経済指標が市場の予想と一致したことで、FRBが9月に利下げを行うとの見通しが強まっています。しかし、この期待は、今後の経済指標の結果次第で大きく変動する可能性があります。

【その他の考慮点】

S&P500の下落には、一部の主要なハイテク企業の株価不振も影響しています。特に、エヌビディアは中国市場の回復の遅れが懸念され、株価が連続して下落しました。また、マイクロソフトやメタ・プラットフォームズといった大手ハイテク企業も株価が振るわず、市場全体に重しとなっています。これらの企業の株価動向は、S&P500全体の動きに大きな影響を与えるため、今後の動向が注目されます。

また、来たる大型連休明けには、投資家心理を左右する重要な経済指標の発表が控えています。米サプライマネジメント協会（ISM）が発表する製造業および非製造業の景況感指数や、特に注目度が高い8月の雇用統計です。もしこれらの指標が市場予想を下回るような結果となれば、投資家のリスク回避姿勢が一層強まり、S&P500の急落を招く恐れがあります。

特に、ドナルド・トランプ大統領が過去の雇用統計の数字を巡って不満を示し、担当局長を解任した経緯があるため、8月雇用統計が再び悪い結果を示した場合、市場の反応は複雑なものになる可能性があります。このような政治的な背景も、投資家の不確実性を高める要因となり得ます。

【全体的な見通し】

現在、米国株式市場は、9月の季節的な株価下落リスクと、今後の経済指標が示す内容との間で揺れ動いています。FRBの利下げ期待が市場の安心材料となっている一方で、主要ハイテク企業の株価不振や、重要な経済指標の発表がリスク要因として存在します。

特に、連休明けに発表されるISM景況感指数や雇用統計は、市場の方向性を決定づける重要な要素となるでしょう。これらの指標が景気の鈍化を示唆すれば、FRBの利下げ観測が強まる一方で、景気後退への懸念から投資家心理が悪化し、株価の急落を招く可能性があります。したがって、投資家は慎重な姿勢を保ち、今後の経済指標を注意深く見守る必要があります。

【用語解説：初心者向け】

S&P500種株価指数：アメリカの株式市場の動きを示す代表的な指数のひとつです。ニューヨーク証券取引所やナスダックに上場している主要な500社の株価をもとに計算されています。この指数を見ることで、アメリカの経済全体が今どういう状況にあるのかを大まかに把握することができます。
FRB（連邦準備制度理事会）：アメリカの中央銀行の役割を担っている組織です。日本でいう日本銀行のようなもので、物価を安定させたり、雇用を最大化させたりするために、金利を上げたり下げたりする金融政策を決定しています。
利下げ：FRBが政策金利を引き下げることです。金利が下がると、企業や個人がお金を借りやすくなるので、経済活動が活発になりやすいと言われています。通常、利下げは株式市場にとっては良いニュースと受け止められることが多いです。
AI（人工知能）：人間のように考える力を持つコンピューター技術のことです。最近では、文章や画像を自動で作ったり、複雑なデータを分析したりするAIが急速に進化しており、関連する企業の株価も大きく上昇することがあります。
ジンクス：特定の出来事や期間に、いつも同じような結果が起こるという、根拠のない言い伝えのことです。株式市場では「9月は株価が下がりやすい」というジンクスが広く知られています。
雇用統計：アメリカの労働市場の状況を示す重要な経済指標です。毎月発表され、失業率や新しく仕事に就いた人の数などがわかります。雇用統計が良い内容だと景気が良いと判断され、株式市場にはプラスに働くことが多いです。
PCE物価指数：個人消費支出の物価指数で、インフレの状況を測るためにFRBが特に重視している指標です。食品やエネルギーを除いた「コア指数」は、物価の基本的な変動を把握するために、さらに注目されます。この指数が安定していると、FRBは利下げに踏み切りやすくなります。