ドルと円の相場は動きが乏しく、ここ1か月ほどは146円から149円の狭い範囲での値動きにとどまっています。この間、主要通貨の中で円は7位、ドルは8位と低調で、両方とも弱さが目立つために相場の幅が小さくなっている状況です。
その弱さをよく示しているのが金の値動きです。金は円建てでもドル建てでも史上最高値を更新し、力強い上昇が続いています。「金の価格はどこまで上がるのか」「高値でも買うべきか」といった質問をよく受けますが、私は日米の金融政策や中央銀行を取り巻く環境を考えると、金はまだ上昇余地があると考えています。
理由は、金そのものの価値が上がるというより、紙幣の価値が下がっているからです。金の価格が上がるというのは、金と交換する紙幣の価値が低下していることを意味します。近年は中央銀行の独立性が揺らぎ、政治的な判断で紙幣が増発されたり、金利が政治的に操作される傾向が強まっています。紙幣は刷れば刷るほど価値が下がるため、こうした流れの中で金が買われるのは自然な動きだといえます。
来週は日米の金融政策決定会合が予定されています。アメリカでは雇用者数の伸びが鈍っていることから、FRBが25ベーシスポイント(bp)の利下げに踏み切る可能性が高いと見られます。ただし注目されるのは、政策金利の見通しを示すドットチャートや、パウエル議長の会見内容です。市場はすでに来週の利下げや、年内3回のFOMCでの利下げをほぼ織り込んでいます。さらに来年末までに合計150bp程度の利下げも見込まれており、こうした予想が修正されるかどうかが米金利に影響を与えるでしょう。
昨年9月の利下げ開始時も、利下げ期待が強まった一方で、パウエル議長の会見や米経済の堅調さが意識され、結局は利下げ前後が米長期金利とドルの底となりました。その後FRBは年末までに合計100bpの利下げをしましたが、長期金利もドルもむしろ上昇しました。今回も同じような展開になる可能性があります。私は、利下げが行われてもパウエル議長が追加利下げに慎重な姿勢を見せれば、米長期金利が上昇に転じ、ドルも買い戻されると考えています。
一方で、FOMCメンバーに対する政治的圧力も注目点です。トランプ大統領による理事の解任に対して米連邦地裁が一時差し止めを出しましたが、政権からFRBへの圧力は今後も続くでしょう。経済の基盤を無視した利下げ要求が繰り返される可能性があります。もっとも、政治的圧力による金融政策を最終的に評価するのは市場であり、トランプ政権は市場の反応を無視できなくなるはずです。もし失業率が低く、インフレも高止まりする中で利下げを強行すれば、ドルの価値は下がり、モノやサービスの価格が上がる、つまりインフレが強まる流れになります。その結果、長期金利も上昇するでしょう。
トランプ政権がFRBに利下げ圧力をかける背景には、膨らんだ債務の利払い負担を軽くしたいという思惑があります。しかし経済実態に逆らった利下げが行われれば、政権が狙った効果とは逆に、金利やドルが上昇する結果になる可能性が高いと考えられます。
日本でも来週、日銀の政策決定会合がありますが、こちらは金利を据え置く公算が大きいでしょう。少なくとも自民党総裁選が終わるまでは政治の空白が続くため、政策変更は見送られると見られます。日経平均が最高値を更新していることは利上げの材料ですが、当面は現状維持になるでしょう。
市場は総裁選後の政権の体制や補正予算の動きに注目しています。政権基盤が弱ければ弱いほど財政拡張が進み、日銀に利上げを控えるよう圧力がかかる可能性があります。すでに日本国債市場はそれを織り込み始めており、10年国債と30年国債の利回り差は過去最高を超えて拡大しています。
日本のインフレ率は3%台であるにもかかわらず、政策金利はゼロ%台にとどまり、大企業の海外投資も続いています。さらにアメリカへの関税引き下げの見返りとして約80兆円の投資を約束しました。加えて、エネルギーや食料、医薬品といった生活必需品の貿易赤字も増え、デジタルサービスも米国に依存しています。
こうした状況を考えると、日本の通貨である円の価値が下がり続けるのは避けられないでしょう。金の価格や日本国債の利回りは、その先行きを示すサインを発し続けています。

