金融市場に不安が広がるきっかけとなったのは、やはりトランプ氏の発言でした。トランプ氏は21日午前9時41分、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に投稿し、パウエルFRB議長のことを「Mr. Too Late(対応が遅すぎる男)」と揶揄しました。そのうえで、FRBがすぐに利下げを行わなければ、「経済成長が鈍化する可能性がある」と主張しました。また、トランプ氏は17日にもパウエル議長を批判し、解任にまで言及しています。政治的に中立な立場で、物価と雇用の安定を任務とするFRBのトップを解任するような動きが現実になれば、アメリカの金融市場の不安がさらに強まる可能性があります。
このように対立が注目されている背景には、トランプ氏が自身の大統領任期中にもパウエル議長をたびたび批判していたという経緯があります。2018年9月20日から12月24日にかけてS&P500が約20%も下落した際には、FRBが利上げを繰り返していたことに対して「FRBは無茶をしている」と不満を表明していました。一方で、パウエル議長は当時の利上げについて、トランプ政権による財政刺激策が想定以上に大きく、物価上昇の圧力になる可能性があったことを理由の一つとして挙げています。実際、FRBが利上げを進めるなかでも、物価動向を示す指標である個人消費支出(PCE)物価指数のうち、変動の大きい食品とエネルギーを除いた「コア指数」は、2%を下回る水準で推移していました。
S&P500の今後の動きについては、トランプ氏の高関税政策や中国向け半導体の輸出規制が、エヌビディアをはじめとする半導体企業の業績に悪影響を及ぼすといった懸念がすでに広がっています。そうした状況のなかで、トランプ氏がパウエル議長への批判を新たに強めたことが、株式市場の混乱をさらに長引かせる可能性を示唆しています。アメリカ株式市場では、22日にテスラの決算発表が、24日にはアルファベット(GOOGL)の決算発表も控えており、世界経済への不透明感が業績見通しを圧迫する材料として意識されれば、S&P500がさらに下落するおそれもあります。

