日本銀行は、7月31日に開かれた金融政策決定会合で、生鮮食品を除いた消費者物価、いわゆるコアCPIの見通しを、2025年度を中心に2027年度までの全体にわたって引き上げることを決めました。一方で、金融政策自体については現状維持の方針が確認されました。
植田和男総裁は記者会見で、物価見通しを引き上げたことと金融政策の関係について、「2025年度のインフレ率が上方修正されたからといって、それだけで政策を変更するわけではない」と述べました。さらに、今の金融政策の運営は、物価上昇に対する対応が後手に回る「ビハインド・ザ・カーブ」の状態にはなっていないとの見方を示し、「そのようなリスクは高くないと思っている」と話しています。
日銀が新たに発表した展望リポートでは、2025年度のコアCPIが前年比2.7%の上昇と予測され、これは5月に発表された2.2%から大きく引き上げられました。背景には、お米をはじめとした食料品の価格上昇があるとのことです。また、2026年度と2027年度の見通しも、それぞれ1.8%、2.0%と0.1ポイントずつ引き上げられました。加えて、2025年度の実質GDP成長率についても、0.6%のプラス成長と見直されました。
為替市場では、植田総裁の会見を受けて円安が進み、一時1ドル=149円87銭まで下落しました。これはおよそ4か月ぶりの安値で、日銀がすぐに利上げに動くとは思われなかったことが、円売りの再燃につながったようです。
今回の会合では、政策金利である無担保コール翌日物金利を0.5%程度に据え置くことが全会一致で決まりました。なお、7月1日に就任した増一行審議委員が初めて会合に参加しています。政策の現状維持は、これで4回連続となります。また、ブルームバーグが7月16日から22日に行ったエコノミスト調査では、今回の会合で利上げがあると予想した人は誰もいませんでした。
物価見通しに関しては、「おおむね上下にバランスしている」という中立的な評価に修正されました。これまで2025年度と2026年度については「下振れリスクの方が大きい」とされていましたが、今回はそうした見方が改められています。ただし、経済全体の見通しについては、25年度と26年度に関して「下振れリスクの方が大きい」との判断はそのまま維持されています。
内外経済の最大のリスク要因とされるアメリカの関税政策については、自動車やその部品を含め、日本への関税率が15%で合意されたとのことです。これを受けて、経済や物価の見通し、リスクバランスの変化に注目が集まっていました。今回の会合結果は、市場での「年内に利上げがあるかもしれない?!」という観測を強めるものとなりそうです。
植田総裁は、日米間の関税交渉の合意について「大きな前進で、日本経済の不確実性を下げることにつながる」と評価しました。そして、アメリカと他国の間でも関税交渉が進展している点を踏まえ、日銀の物価見通しが実現する可能性が「少し高まった」との認識を示しました。
ただし、「各国の通商政策に関する不確実性は、まだ高いままの状態が続いている」とも述べ、今後の交渉の進展を見ながら「関税についての着地点が見えてきた。今後は、その影響が段階的に現れてくる」と話し、企業の収益や賃上げの動きに注目していく考えを示しました。
展望リポートでは、基調的な物価の上昇率について、2027年度までの後半には「日銀が掲げる物価安定目標とおおむね一致する水準で推移する」との見方が示され、2%の物価目標達成時期については変更されませんでした。金融政策については、見通し通りに物価や経済が改善していけば、「政策金利を引き上げて、金融緩和の度合いを調整していく」という基本方針が引き続き維持されました。
景気の現状については、一部には弱い動きがあるものの、全体としては緩やかに回復しているという判断に変わりはありませんでした。ただし、個人消費については「底堅く推移している」と評価をやや引き下げ、これまでの「緩やかな増加傾向を保っている」という表現を修正しました。
最後に、植田総裁は基調的な物価について「まだ2%には届いていない」という考えを改めて述べ、今後も2%に向けて緩やかに上昇していくとの見通しを示しました。そして、物価の動向やリスクの大きさを丁寧に確認しながら、「先々の利上げが必要かどうか、またそのタイミングについては、毎回の会合で適切に判断していく」と語りました。

