米関税で利上げ「相当遠のいた」、日本経済の正念場は来年か=政井元日銀委員

元日本銀行審議委員で現在はSBI金融経済研究所の理事長を務める政井貴子氏は12日、ロイターのインタビューに応じ、アメリカの関税政策が日本経済に与える影響が懸念される中で、日銀による追加の利上げは「かなり先送りされることになりそうだ」と述べました。

政井氏は、トランプ政権が打ち出した関税政策が日本の自動車産業に打撃を与える可能性があり、日本経済は2026年ごろに大きな転換点を迎えるかもしれないと指摘しています。関税の影響でアメリカ国内の需要が落ち込めば、それが日本の輸出や生産に悪い影響を及ぼすという見方を示されました。

4月2日にトランプ大統領が「相互関税」の方針を表明して以降、日本の経済指標に大きな変化はまだ見られていないものの、政井氏は「関税の影響が価格に転嫁されるまでには半年から1年ほどかかる」と説明し、当初は影響が限定的であっても、時間の経過とともに徐々に広がっていく可能性があると述べています。

とくに、自動車産業のように関連業種が広範囲にわたる分野では、生産全体や経済全体に少なからぬ悪影響が出るおそれがあり、企業の景況感の悪化を通じて、他の業界や賃金の動き、さらには消費動向にも波及する可能性があるため、注意が必要だと話しています。

また、政井氏は、アメリカの関税政策を背景に多くの中央銀行が利下げに踏み切っている現状をふまえ、世界経済が「非常に緊張した局面」にあると指摘しました。その上で、今後も景気が緩やかに拡大していくと断言するのは難しく、日銀としても判断がより複雑になるだろうと述べ、「しばらくの間は利上げを見送る可能性が高い」としています。さらに、アメリカと他国の関税交渉の行方によっては、2025年のみならず2026年いっぱいも利上げが難しい状況が続くかもしれないという見解を示しました。

現在続いている物価上昇については、供給側のショックによるところが大きいとし、今後、世界経済が減速すれば原油などの資源価格も下がり、それに伴ってコスト面の圧力も和らぐだろうと述べ、「無理に急いで利上げする必要はない」と話しました。

さらに、仮にアメリカの関税措置によって日本経済が大きく落ち込むような状況になれば、日銀が利下げを検討せざるを得ない事態も想定されると指摘しました。そうした中でも、利下げを行わずに済むことが日銀にとっては「最善のシナリオ」ではあるものの、その代わりに「一定期間、実質金利を低い水準で維持することで、経済を下支えしていく方針を示す必要が出てくるかもしれない」と述べています。

政井氏は、アメリカの高関税政策が長期化する可能性を視野に入れ、「当面は利上げを控え、実質金利を低く保つことで、日本経済の構造転換を支援していく必要がある」と語りました。自動車産業に依存しすぎず、その他の輸出品の競争力を高める取り組みや、内需を強化する政策が求められており、日銀としても「利上げを実施できる環境を整えるために、政府の対策と歩調を合わせた政策運営を行うべきだ」と述べました。

なお、政井氏は2016年から2021年まで日本銀行の審議委員を務められていました。

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