2025年4月16日
米国債市場の動揺と海外投資家の動き
【考察】
最近の米国債が売られている動きについて、すぐに「海外投資家が一斉に撤退している」と断定するのは早計です。ただし、何らかの変化が水面下で進んでいる兆しは見えており、今後その動きがどれほどの規模に発展するのかが、投資家や米政府が真剣に向き合うべき課題となっています。
欧州時間4月14日午前の米10年国債利回りは4.44%となり、4月11日の終値である4.5%からはやや下がったものの、4月4日以前の4%未満と比べると依然として高水準です。先週の10年債利回りの上昇幅は、過去20年以上で最大でした。
4月2日にトランプ大統領が発表した「相互関税」の詳細が引き金となり、市場は混乱しました。通常であれば、こうしたリスク回避の場面では安全資産である米国債が買われるはずですが、実際には売られており、予想外の展開となっています。本来、利回りの上昇は、将来的な経済成長や物価上昇の見込みによって正当化されるものです。しかし今回は、そのような前提条件が見当たりません。むしろ関税の影響で世界的な貿易が縮小し、経済成長は抑制されると考えられます。実際に、期間10年のブレーク・イーブン・インフレ率といった物価上昇の予想指標も、4月に入ってから低下しています。
【その他の考慮点】
ヘッジファンドの中には、レバレッジ(借入金)を過剰に活用していたために、価格下落により売りを強いられているケースが見られます。このような動きが、米国債市場の秩序を乱してしまう可能性があります。もし混乱が拡大すれば、2022年に英国債市場で起きた急激な変動時にイングランド銀行が行ったように、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長も緊急の債券買い入れに動くことが考えられます。
さらに、米国政府にとってより深刻な展開は、貿易政策に関する混乱が海外投資家の不安を煽り、米国の金融資産からの資金流出を引き起こすことです。公式データの公開には時間がかかるため、現時点では「状況証拠」しか得られませんが、4月に入ってから米国債の利回りが上昇しているにもかかわらず、主要通貨に対するドル指数が約5%下落している点は、ドル建て資産への売り圧力が高まっていることを示唆しています。
また、ドイツ、スイス、日本の国債など、他の安全資産とされる債券の利回りは低下しており、米国債とは逆の動きを見せています。
【全体的な見通し】
米国財務省のデータによれば、オランダの年金基金、中国政府、日本の生命保険会社など、海外の多様な投資家が2025年1月時点で約8兆5000億ドルの米国債を保有しています。これは、米証券業金融市場協会(SIFMA)が推計する発行済み米国債の約30%に相当します。これらの投資家が米国債の保有を減らしていけば、今後長期にわたって米国債の利回りは上昇を続ける可能性があります。
加えて、海外投資家は近年、米国株にも積極的に投資してきました。UBSのアナリストによる最近の試算では、海外投資家のドル建て資産(株式および債券)の保有が5%減るだけで、最大で約7000億ドル規模のドル売り圧力が発生する可能性があるとしています。これは米国の経常赤字の約3分の2に相当し、もし現実となれば、現在の市場の混乱がごく小さなものに見えるほど、重大な経済的打撃となるでしょう。
【用語解説:初心者向け】
・米国債:アメリカ合衆国政府が発行する債券で、安全資産とされることが多いです。
・利回り:投資に対する収益率のことで、債券の場合は価格が下がると利回りが上がる仕組みです。
・相互関税:外国がアメリカ製品にかける関税と同じ水準の関税を、アメリカもその国の製品に対してかけるという政策です。
・レバレッジ:投資で使う借り入れのことで、利益も損失も大きくなりやすい特徴があります。
・FRB(米連邦準備制度理事会):アメリカの中央銀行のような役割を果たし、金利の調整などを通じて経済の安定を図る機関です。
・ドル指数:主要通貨に対する米ドルの価値を示す指標です。下落するとドルの価値が相対的に低下していることを意味します。
・ブレーク・イーブン・インフレ率:インフレ連動債と通常の国債の利回り差から計算される、将来の物価上昇率の市場予想です。
・経常赤字:一国が海外から得る収入よりも支出の方が多い状態のことで、貿易赤字なども含まれます。


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